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東京地方裁判所 昭和48年(ワ)2137号 判決

原告

中島三郎

右訴訟代理人

佐久間武人

外一名

被告

米原貢

主文

一  被告は、原告に対し、東京都北区田端新町二丁目九四番宅地上の別紙図面記載ロ点とハ点とを結んだ線上に設置してある高さ約1.86メートル、長さ約11.14メートルのトタン塀及び別紙図面記載イ点とロ点とを結んだ線上に設置してある高さ約1.85メートル、長さ約0.88メートルの木戸を撤去せよ。

二  被告は、原告に対し、前項記載の土地のうち、別紙図面記載イ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次結んだ線で囲まれた範囲内の土地を原告が徒歩及び車両で通行することを妨害してはならない。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実《省略》

理由

一東京都北区田端新町二丁目九四番宅地132.56平方メートル(40.10坪)を被告が賃借していたこと、被告が、昭和二七年一二月頃、三浦寿松に右土地のうち本件土地の借地権を譲渡したこと、その際、被告は、三浦に対し西側の公道に通ずる被告の借地部分の通行を認容したこと、三浦が本件土地上に本件建物を建築所有したこと、三浦が、その後、横尾太一に本件建物及び本件土地の借地権を譲渡したこと、三浦が本件通路を使用していた間、格別問題は生じなかつたこと、原告が、その主張の日に、横尾から、本件建物及び本件土地の借地権を譲受けたこと、被告が、原告主張の日に、その主張のトタン塀を設置したことは、いずれも当事者間に争いがなく、東京都北区田端新町二丁目九四番宅地が興楽寺の所有であり、被告から三浦に対する本件土地の借地権譲渡につき同寺の代理人である浅香銀次郎の承諾があつたこと、三浦が本件建物につき所有権取得登記を了したこと、原告が本件建物につきその主張の所有権移転登記を了したこと、被告が原告主張の木戸を設置したことは、いずれも被告の明かに争わないところであるから、これを自白したものとみなす。

右認定事実、〈証拠〉を総合すると、被告は、昭和二七年八月三一日、興楽寺から、前記九四番宅地132.56平方メートル(40.10坪)を借受け、西側公道に面して店舗兼居宅一棟を建築し、同年一二月頃食料品小売業を開業したが、経営困難となつたため、右借地の内東側半分を三浦に譲渡することとしたが、右土地が袋地となるため、公道から同地に通ずる通路として、幅員約1.8メートル、奥行約一一メートルの通路を開設することとし、かつその通路部分は、これを二分し、南側幅員約0.91メートルの部分は三浦の負担、北側幅員約0.91メートルの部分は被告の負担とすることとして、それぞれ各自の借地部分に計上して地代を負担することとし、借地権譲渡につき土地所有者の代理人である浅香銀次郎の承諾を得る際にも、その旨申し述べ、同人の承諾を得たこと、その後、三浦及び同人から本件土地の借地権を譲受けた横尾は、別紙図面記載イ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次結んだ線で囲まれた範囲内の土地を含む本件通路を通行使用し、殊に三浦はサイドカーに乗車して通行していたが、被告は、これに対し格別異議を唱えなかつたこと横尾から本件土地の借地権を譲受けた原告が、本件通路上に置かれてあつた被告所有の機械が通行の邪魔になるため、その除去を被告に求めたところ、被告は、突如、本件トタン塀及び木戸を設置し、別紙図面記載イ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次結んだ線で囲まれた範囲内の土地につき原告の通行を妨害したことが認められ、右認定に反する被告本人の供述は、前掲各証拠に対比し、たやすく措信できず、他に右認定に反する証拠はない。

次に、〈証拠〉を総合すると、現在、本件土地のうち、原告が公道に至る通路として使用している部分は、幅員約九五センチに過ぎず、人一人がやつと通行できる底のものであつて、通路としての機能、効力を発揮しないものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

二ところで、借地上に登記した建物を所有すること等により対抗力のある借地権を有する者が、土地所有者の承諾を得て、借地権の一部を他に譲渡した結果、公路に通じない借地が生じた場合においては、民法第二一三条を類推適用し、右一部の借地権を譲り受けた者は、公路に至るため、右一部の借地権を譲渡した者の借地を通行することができ、その後、右一部の借地権者から当該借地権を譲り受けた者も、当該借地権の譲り受けを第三者に対抗し得る限り、当該借地権譲り受けに伴い、右通行権を取得し、右一部の借地権を譲り渡した者にこれを主張することができると解するのを相当とする。

右の前提に立つて、前認定の諸事実について考えると、被告から本件土地の借地権を譲り受けた三浦は、建物所有の目的の範囲内において必要な限度において、かつ、被告に損害が最も少い限度において、被告の借地を通行し得る権利を有するものというべく、その範囲は、被告が当初の約定に従い、三浦の通行を容認していた部分、すなわち、本件通路中被告借地に係る部分であり、別紙図面記載イ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次結んだ線で囲まれた範囲内の土地はこれに含まれると認めるのが相当である。

しかして、三浦が横尾に、横尾が原告に、それぞれ本件土地の借地権及び本件建物を譲り渡し、本件建物につきそれぞれ所有権移転登記を了したことは、前認定のとおりであるから、原告は、本件土地の借地権譲り受けに伴い、右被告の借地部分の通行権を取得し、これを被告に対抗し得るものといわなければならない。

してみれば、被告は、原告に対し、その主張のトタン塀及び木戸を撤去し、別紙図面記載のイ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次結んだ線で囲まれた範囲内の土地を原告が徒歩又は車両で通行することを妨害してはならない義務を負担するものというべきである。

三よつて、原告の本訴請求は、いずれも理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、仮執行宣言の申し立ては、相当でないから、これを却下することとして、主文のとおり判決する。

(山口繁)

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